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東京高等裁判所 平成11年(行ケ)196号 判決 2000年11月15日

原告

ユーエスピーエープロパティーズインク

代表者

訴訟代理人弁理士

被告

代表者代表取締役

訴訟代理人弁護士

岩出誠

中村博

村林俊行

小林昌弘

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が平成9年審判第18755号事件について平成11年3月26日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文1、2項と同旨

第2当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、別紙商標目録記載のとおり、「U.S.POLO」の欧文字と「ユーエスポロ」の片仮名文字を2段に書して成り、平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表の区分による第21類「装身具、ボタン類、かばん類、袋物、宝玉およびその模造品、造花、化粧用具」を指定商品とする登録第2547305号商標(昭和63年10月28日登録出願、平成5年6月30日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。

被告は、平成9年11月5日、原告を審判被請求人として、本件商標につき不使用に基づく登録取消しの審判の請求をし、その予告登録が同年12月3日(以下「予告登録日」という。)にされた。

特許庁は、同請求を平成9年審判第18755号事件として審理した上、平成11年3月26日、「商標法第50条の規定により、登録第2547305号商標の登録は、取り消す。」との審決をし、その謄本は同年4月7日に原告に送達された。

2  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、①被請求人(原告)が本件商標を使用していたとの被請求人の主張につき、本件商標は、予告登録前3年以内に日本国内において、被請求人によりその請求に係る指定商品について使用されていなかったものといわざるを得ないとし、また、②本件商標の登録が取り消されても、その権利範囲内で第三者の新たな登録が認められるものではなく、本件審判請求は商標権者を害することだけを目的にしてされたものであって、審判請求の利益を欠くとの被請求人の主張につき、第三者が新たな登録を取得し得るか否かは、そのような出願がされた際の審査過程で判断されるべきであり、また、本件審判請求が商標権者を害することだけを目的にしてされたものと認めるに足りる証拠もなく、本件審判請求がその利益を欠くことになるものとはいえないとした。

第3原告主張の審決取消事由

原告は、予告登録日から3年以内に本件商標を指定商品に使用していたものであり(取消事由1)、また、本件審判請求は審判請求の利益を欠くものである(取消事由2)。審決は、これらの点において認定判断を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。

1  取消事由1(本件商標の使用)

審決は、「被請求人(注、原告)が本件商標の使用の事実を証明するものとして提出した乙第2号証の1ないし6(広告資料)(注、本訴甲第4~第9号証)によれば、同号各証には『さいふ、パス入れ、小物入れ、ポーチ』等の商品が掲載されており、乙第2号証の1(注、本訴甲第4号証)には本件商標の欧文字部分に相当する『USPOLO』の文字が表示されていることを認めることができる。しかしながら、同号各証の広告資料は、いずれも印刷日の記載がなく、配付時期を確認できる証拠もないため、何時、印刷され使用されたものであるかを把握することができない。また、上記商品が実際に取引されていたことを証する納品伝票、請求書等の取引書類も提出されていない。」(審決書4頁18行目~5頁5行目)として、原告による本件商標の使用の事実を認めなかった。

しかしながら、審決の上記認定に係る各広告資料(以下「本件広告資料」という。)は原告のライセンシーである株式会社ラモーダヨシダ(以下「ラモーダ」という。)の発注により作成されたもので、その印刷年月日は、東京荷札印刷株式会社のラモーダ宛て納品伝票(甲第11号証)によって明らかである。また、本件広告資料に掲載された商品が実際に取引されたものであることは、ラモーダの納品書控え(甲第12~第19号証)によって認められる。

さらに、審決の上記説示においては、本件広告資料のうちの甲第4号証のみに本件商標の「USPOLO」の文字が付されているかのように認定されているが、甲第5~第9号証にも、それぞれ写真と商品の価格表示の間の部分に「U.S.POLO」の文字から成る商標が付されている。それらの「U.S.POLO」の文字の下には「ASSOCIATION」の文字が併記されているが、その「ASSOCIATION」の文字の大きさは「U.S.POLO」の文字の大きさの4分の1程度であり、書体、間隔も異なる。このように2段書きで、かつ、上段と下段の文字が、同書、同大、同間隔に表示されているのではない場合、上下段の文字部分が一体に認識されることはなく、大きく表示されている文字部分より成る商標が使用されていると認められるのであり、したがって甲第5~第9号証にも「U.S.POLO」の文字より成る商標が付されているということができる。、そして、「U.S.POLO」の文字より成る商標は、社会通念上、本件商標と同一と認められるものである。

2  取消事由2(審判請求の利益の欠如)

原告の「本件商標が取消されても、それにより第三者が本件登録の権利範囲において新たな登録が認められるものではないから、審判請求の利益を欠く」(審決書4頁5行目~8行目)、「本件の審判請求は、商標権者を害することだけを目的になされたことは明らかであるから、請求の利益なしとして退けられるべきものである」(同頁11行目~13行目)との各主張に対し、審決は、「請求人(注、被告)を含めて第三者が新たな登録を取得し得るか否かは、そのような出願がなされた際の審査過程において判断されるべきことであって、被請求人(注、原告)主張の理由により、直ちに本件審判請求の利益を欠くことになるものとはいえない」(同5頁13行目~16行目)、「本件審判請求が商標権者を害することだけを目的にしてなされたものであると認めるに足りる証拠もない。」(同頁17行目~19行目)として、被告の審判請求の利益を認める旨の判断をした。

しかしながら、本件商標は、原告の商号的商標であり、商標自体が商標権者を表示するものであって、保護すべき信用が化体しているものである。このような商号的商標については、たとえ個別の商品に明確に使用されていなかったとしても、直ちに不使用取消審判の目的とされるべきものではない。すなわち、第三者が使用したときに混同の生ずる可能性のある商品については、商号的商標を防衛的に登録しておく必要があり、かつ、同一ではないが極めて類似した商標の使用を防ぐ場合、及び商標権者が使用を開始する場合を考慮すると、防護標章登録制度では不十分であって、普通商標として登録をしておく必要もある。このような防衛的登録まで不使用取消審判の対象とすることは制度趣旨に反する。

また、他者の商号から成る商標又はこれに類似した商標の使用は、その他者の有する商号と指定商品を異にする場合であっても許すべきではない。特に本件商標は、権利者である原告を表示するものとして既に著名性を獲得しているから、その登録取消後に、第三者からこれに類似する商標の登録出願があっても、商標法4条1項15号により登録が拒絶されるべきである。したがって、本件商標の登録が取り消されたとしても、それによって商標使用希望者の商標選択の余地が広がるわけではない。

さらに、被告は、多数の不使用取消審判を請求し、それ自体によって利益を得ているものであって、本件審判請求についても原告を害することだけを目的としているものである。

したがって、本件商標の取消しを求める本件審判請求は、審判請求の利益を欠くものである。

第4被告の反論

審決の認定、判断は正当であって、原告主張の審決取消事由は理由がない。

1  取消事由1(本件商標の使用)について

本件広告資料に付された商標は、「U.S.POLO」の文字部分と「ASSOCIATION」の文字部分とを2段に書して成るものであって、本件商標と全く異なるものであるから、これをもって本件商標の使用の事実とすることはできない。

2  取消事由2(審判請求の利益の欠如)について

原告は、本件商標が原告の商号的商標であり、商標自体が商標権者を表示するものである旨主張するが、本件商標は、原告自身の商号や、原告がその上部団体であると称する全米ポロ協会(UNITEDSTATESPOLOASSOCIATION)の名称のいずれをも表示するものではない。

また、原告は、被告が、原告を害することだけを目的として本件審判請求をした旨主張するが、被告は、米国のPOLOAMERICAGROUPの主宰者であるDとの契約により、その商標である「POLOAMERICA」を使用した日本国内における商品(本件商標の指定商品に含まれるもの)展開を計画しており、そのために本件審判請求をしたものである。

第5当裁判所の判断

1  取消事由1(本件商標の使用)について

(1)  本件広告資料(甲第4~第9号証)のうち、甲第4号証の広告資料には、上部の写真部分の中に本件商標の欧文字部分に相当する「USPOLO」の文字から成る商標が表示されており、当該商標は、本件商標と社会通念上同一のものと認められるから、甲第4号証の広告資料が展示又は頒布された場合には、本件商標の使用の事実に当たるものということができる(商標法2条3項7号)。

他方、本件広告資料のうちのその余のもの(甲第5~第9号証)には、本件商標又は社会通念上これと同一のものと認められる商標が付されていると認めることはできない。

もっとも、甲第5~第9号証の広告資料には、いずれも上部の写真部分と下部の価格表示部分とに挟まれた部分に、上段に「U.S.POLO」の欧文字を、下段に「ASSOCIATION」の欧文字を配した商標表示と認められるものが存在する。そして、原告は、それらの表示において、上段の文字と下段の文字とが、上下2段とされていることに加え、文字の大きさ、書体、間隔が異なるから、上下段の文字部分が一体に認識されることはなく、大きく表示されている上段の「U.S.POLO」の文字部分から成る商標が使用されているとして、甲第5~第9号証の広告資料に「U.S.POLO」の文字より成る商標が付されており、これが社会通念上、本件商標と同一と認められる旨主張する。

確かに、甲第5~第9号証の広告資料中の当該表示においては、いずれも下段の「ASSOCIATION」の部分の文字の大きさが上段の「U.S.POLO」の部分の文字の大きさより小さく、それに伴って文字の間隔も上段と下段とで異なることが認められる。しかしながら、これらの表示のいずれにおいても、上段の文字と下段の文字の書体はそれぞれ同一であると認められ、かつ、上段と下段の間隔も上段の文字の大きさの4分の1ないし3分の1程度でごく近接しており、しかも、上段の文字部分と下段の文字部分が同じ長さで、各々の前後端を同じ位置にそろえて配置してある(甲第7~第9号証)か、又は下段の文字部分の長さが上段の文字部分の長さより短いが、それぞれの文字部分の横方向中央を同じ位置にそろえ、下段の文字部分の上段の文字部分と重ならない部分がその前後端で同じ長さとなるよう配置してあり(甲第5、第6号証)、いずれにしても、上下段の文字部分がまとまりよく一体に表されている。のみならず、上下段の文字を連続した「U.S.POLOASSOCIATION」の語は、「米国ポロ協会」という独立した1個の観念を表わしている。

そうすると、甲第5~第9号証の広告資料中の当該表示に係る上段の文字と下段の文字は、上下2段に表示され、上段の文字と下段の文字とが大きさを異にするとしても、いずれも外観において緊密な一体性を有しており、また観念においてもつながりを有するものであるから、全体として1個の商標を構成するものと認めるのが相当である。なお、仮に、取引の実際において、これらの商標につき上段の文字部分のみから生ずる称呼をもって取引に当たることがあるとしても、それは、当該1個の商標が、その構成のうちの一部分より生ずる称呼によっても称呼されるというにすぎず、前示のとおり、外観において緊密な一体性を有し、観念においてもつながりを有する上下段の各文字部分が全体として1個の商標を構成すると認められることと相容れないものではない。

そして、この上段の「U.S.POLO」の欧文字と下段の「ASSOCIATION」の欧文字とを2段に書して成る商標が、本件商標と同一でないことはもとより、本件商標と社会通念上同一のものと認められるということもできない。

(2)  原告は、本件広告資料が、原告のライセンシーであるラモーダの発注により作成されたもので、その印刷年月日は納品伝票(甲第11号証)によって明らかである旨主張する。

しかしながら、当該納品伝票(甲第11号証)は、東京荷札印刷株式会社からラモーダ宛てのもので、品名中に「ポロカタログ2点」との記載があるが、その2点の「ポロカタログ」が本件広告資料を示すものとしても、6点ある本件広告資料(甲第4~第9号証)のうちのいずれを指すものであるかを明らかにする証拠はない。そうすると、仮にラモーダが原告のライセンシーとして本件商標に係る使用権者であるとしても、前示のとおり、本件商標と社会通念上同一のものと認められる商標が付された甲第4号証の広告資料の作成年月日が、当該納品伝票によって明らかにされるということはできない。

のみならず、当該納品伝票(甲第11号証)には、その作成日付と認められる「5年7月22日」との記載があるから、当該納品伝票に記載された「ポロカタログ2点」を含む各商品はその日付のころにラモーダに納入されたものと推認され、かつ、当該日付は平成5年7月22日を意味するものと解するのが自然である(それ以外の日を意味するものと認めるに足りる証拠はない。)。そうすると、当該「ポロカタログ2点」がラモーダに納入されたのは、予告登録日(平成9年12月3日)前3年以内の期間の開始時よりも更に1年4か月余り前のことになるところ、そのような時期に納入された当該「ポロカタログ2点」が、予告登録日前3年以内に展示又は頒布されたことを認めるに足りる証拠はない。

そうすると、いずれにしても、当該納品伝票(甲第11号証)によって、予告登録日前3年以内に甲第4号証の広告資料が展示又は頒布されたことを認めることはできない。

なお、ラモーダの納品書控え(甲第12~第19号証)は、発行年月日を95年1月13日から同年6月9日までとし(「95年」は1995年(平成7年)を意味するものと認められ、したがって、この期間は、予告登録日前3年以内の期間に含まれる。)、販売先を石川商店外3社とするものであるが、その各納品書控えの「品番」欄に記載された販売商品の商品番号のうちに、甲第4号証の広告資料に掲載された各商品の商品番号(MJ571~MJ578)と一致するものは全く存在しないから、当該納品書控えによって、甲第4号証の広告資料に掲載された商品が実際に取引されたものであることを認めることはできない。そうすると、当該納品書控えが予告登録日前3年以内に発行されているからといって、前示のとおり、本件商標と社会通念上同一のものと認められる商標が付された甲第4号証の広告資料が当該期間中に展示又は頒布されたことを推認することもできない。

(4)  以上のとおり、予告登録日前3年以内に日本国内において原告、専用使用権者又通常使用権者のいずれかが、本件審判請求に係る指定商品のいずれかについて、本件商標の使用をしていたことを認めることはできないから、これと同旨の審決の判断に誤りはない。

2  取消事由2(審判請求の利益の欠如)について

原告は、本件商標の取消しを求める本件審判請求は、審判請求の利益を欠くと主張し、その理由として、まず、本件商標は原告の商号的商標であるところ、商号的商標については、第三者が使用したときに混同の生ずる可能性のある商品につき防衛的に登録しておく必要があり、その場合に、防護標章登録制度では不十分であって、普通商標として登録をしておく必要もあるから、商号的商標については、個別の商品に明確に使用されていなかったとしても、直ちに不使用取消審判の目的とされるべきものではない旨主張する。

しかしながら、仮に本件商標が原告のいわゆる商号的商標であるとしても、不使用取消審判において商標権者のする使用事実の証明に関し、当該商標がいわゆる商号的商標であるからといって、あるいは当該商標の登録が防衛的な意図でされたものであるからといって、使用事実の証明を不要とし、あるいは一般の商標と比較して緩やかな証明で足りると解すべき法律上の根拠は存在しない。したがって、原告の上記主張は失当というほかない。

また、原告は、他者の商号から成る商標又はこれに類似した商標の使用は許すべきではなく、特に本件商標は、原告を表示するものとして既に著名性を獲得しており、その登録取消後に、第三者からこれに類似する商標の登録出願があっても、商標法4条1項15号により登録が拒絶されるべきであるから、本件商標の登録の取消しよって商標使用希望者の商標選択の余地が広がるわけではないとも主張する。

しかしながら、登録出願に係る商標が、商標法4条1項8号等、同項各号のいずれかに該当する場合のほか、他者の商号から成る商標又はこれに類似した商標であるからといって、その故にその登録出願が拒絶されるものではない。また、本件商標が原告を表示するものとして著名性を獲得していることを認めるに足りる証拠はないから、本件商標の登録取消後、第三者からこれに類似する商標の登録出願があった場合に、同項15号により登録が拒絶されるものと直ちに認めることはできない。それのみならず、これらの事由を含めて、本件商標の登録取消後、第三者からされる商標登録出願に拒絶事由があるかどうかは、その出願に対する審査の過程で判断されるべき事項であるから、いずれにしても、原告の上記主張は失当である。

さらに、原告は、被告が本件審判請求につき原告を害することだけを目的としている旨主張するが、そのような事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって、本件審判請求が審判請求の利益を欠くものとすることはできず、これと同旨の審決の認定判断に誤りはない。

3  以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理の申立てための付加期間の指定につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 篠原勝美 裁判官 石原直樹 裁判官 宮坂昌利)

<以下省略>

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